生きづらさマガジン

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『違国日記』第2話

本当は自分の「孤独」を書きたいのにその孤独を「わからせようとする言葉」を書く事がある。あなたと違う国にいることを忘れてしまう。

 


朝が中学三年生の冬、父とその内縁の妻である母の乗った車がパーキングエリアで停車していたところをトラックに追突される。
警察に駆けつけた槙生が見たのはぼんやりとした朝と、遺体の確認を朝にさせた槙生の母だった(母が朝にそうさせたことを槙生はのちに「絶対に許せない」と語っている)。


起きたことが飲み込めず終始ぼうっとしている朝と、ずっと嫌いだった姉が死んでもなお憎しみが消えないと感じる槙生。二人に悲しみは訪れない。朝のことを気の毒だと思うぶん、朝のために悲しめないことの方が悲しいと言う槙生。

 

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先の遺体確認のことといい、このことといい、槙生は朝に対する気持ちというのが「通りすがりの子供に思う程度にもあなたに思い入れることもできない」と言いつつもしっかりとある。きちんと食べさせるし、自分の家で一晩の寝床も与える。


だから葬式の日、親戚から盥回しにされている朝を見て愛せるかどうかもわからない彼女を引き取ると言ったのも情や血の繋がりといったものより、子供に相応しくない扱いを受けている状態にある「朝の気持ち」に寄ったものだった。
そういうことをなかなか私たちはできない。余計なしがらみや社会のルール、一般常識、その場の空気感でズルズルと決めさせられ、そうなるのが当然と思い込む。さらには目の前の相手もそうだろうと思い込み、みんな一緒なんだと言い聞かす。違う国の人間だというのを忘れて。
槙生は言う。「わたしは決してあなたを踏みにじらない」と。


悲しめない自分が変なのかもしれないとつぶやく朝に槙生は言う。「あなたの感じ方はあなただけのもので誰にも責める権利はない」と。これは槙生を形成する大事なワードで、のちに自分自身が責められた時にも言っている。

そして槙生は朝に日記をつけるようすすめる。
「この先誰があなたに何を言って誰が何を言わなかったか」
「あなたが今何を感じて何を感じないのか」
「たとえ二度と開かなくてもいつか悲しくなったときそれがあなたの灯台になる」
槙生のように群れをはぐれた狼のようになっても、孤独の運命を退けられるように。